映画『かぐや姫の物語』

miroku

2015年02月08日 22:26

風邪の具合もおかげさまで快方に向かっており、のどの痛みはほとんどなくなった模様。
まだ少し咳が残る程度で、休日の二日間をツブした甲斐があったってもんです。

と、ここで前回のクイズごっこの答え合わせ。

レンタルしてきた6本中の3本はクリア。で、今は4本目の途中までってコトで、正解はでした。
気になる正解者の方は・・・チッ、誰もいねぇのかよ。せっかく唇を数字の「3」のカタチにして待ってたというのにッ!




で、

だ。

そんなクリア済みの3本の中で、「なんでコレ、劇場で観なかったんだろう・・・バカバカバカ!伊賀のカバ丸ッ!」と慙愧の念に駆られた作品があったので、ちょっくら感想記事なんかをば。





『かぐや姫の物語』









【ストーリー】
今は昔、竹取の翁が見つけた光り輝く竹の中からかわいらしい女の子が現れ、翁は媼と共に大切に育てることに。女の子は瞬く間に美しい娘に成長しかぐや姫と名付けられ、うわさを聞き付けた男たちが求婚してくるようになる。彼らに無理難題を突き付け次々と振ったかぐや姫は、やがて月を見ては物思いにふけるようになり...。





原作は、みなさんご存じの「竹取物語」
誰でも知っている内容を、今あらためてアニメーション化した今作は、映画を構成する全ての要素に於いて、圧倒的なクオリティーを誇る作品であり、「感動した」や「泣けた」などという薄っぺらい言葉さえも拒絶する、こういう表現は適当ではないのかもしれないけれど「救いのない哀しい物語」でした。





※※※ 以下、ネタバレ含む。 ※※※





アニメだから、絵が動く。
当たり前のこのコトが、これほど美しく表現された作品も珍しいんじゃないかな。
人物と背景がまるで水彩画のように描かれ、それが極自然に動く。風が吹けば草木がなびき、喜怒哀楽に応じて躍動する身体・・・ただただ画面を眺めているだけでも、得も言われぬ幸福感に満たされます。

線の一本一本に生命が宿り、静と動の、その動きのひとつひとつに意味がある。

その流れや動きがあまりにナチュラルなので、一見何でもないようなコトに感じるけれど、このクオリティーの作画が2時間以上にも渡って続くって、ちょっと考えられないというか、大袈裟に言えば「ちょっとした奇跡」だと思います。
まぁ、「奇跡 = 現場の尋常じゃない作業量」なんだろうけれど。

とにかく、この動く絵を観るだけでも、価値のある作品でした。



そして、物語。

キャッチフレーズにある「姫が犯した、罪と罰」
その解釈については、おそらくはこの作品を観た人の数だけあるんだろうけれど、ボク個人の感想としては「生きていくこと、それ自体が罪」なのかなと。

「え?そんなネガティブな映画なの???」

と早合点したそこのアナタ、もうちょっと我慢して先まで読んでください。この映画は決してネガティブ礼賛なものではないので。



生きることの罪とはいっても、キリスト教的な原罪のそれとは若干ニュアンスが違っていて、ちょっと説明が難しいんだけど。。。
かぐや姫は翁や媼の為に自分の感情を押し殺し、翁は姫の為を思い権力者に寄り添い、他の者達もそれぞれの立場で、それぞれの感情に従って、生きる。
その様々な生き様の歯車が微妙に噛み合わなくなっていき、やがてかぐや姫は月の世界の還らざるをえなくなるという終焉を迎えるんですが、この月の世界というのは、決して楽園ではなく、人間の持つ喜怒哀楽を超越した「悟り」の世界です。

劇中の描写も、雲中供養菩薩が奏でる曲の調べと共に、菩薩(風な人物)が月からやって来るというもので、仏教でいうところの「来迎」のイメージそのままで描かれています。

では、「来迎」とは何か?
人間が死ぬ際に、極楽浄土の彼方から仏様が雲に乗ってお迎えに来るという思想。それが来迎です。
つまり、この作品で描かれる月の世界とは、この世の一切の苦痛から解き放たれた極楽浄土であり、それはつまり人間的感情が許されない「死」の世界というコトです。



月の世界(死)の住人であるかぐや姫が、地球(生)に憧れ、その罪によって地球に転生させられる。
地球で人間として生を受け、大地に根差して生きる感情を喜びのままに謳歌し、四季を愛で、自然を愛しながらもまた、人としての苦悩に疲れ果て、無意識のうちに「月に帰りたい」(=感情の拒絶)と願い、その結果問答無用で月に強制送還されてしまう。。。

つまり、罪とは喜怒哀楽に一喜一憂する人間の姿そのものなんじゃないかと、ボクは思うんです。

人間は仏じゃない。
人として生きたが故に、姫と翁や媼は別れ離れになり、そのラストシーンはボクたちがイメージとして共有している「かぐや姫という昔話」以上に、悲劇的で心を揺さぶられる物語になっていて、近年稀にみるアンハッピーエンドを迎えます。

でも、だからこそ観る価値のある作品なんだと思います。

愚かだけれど、無様だけれど、切なくて哀しくて遣り切れないことばかりだけど、それでも生きていくというコトはそれ自体に意味があって、何物にも代えがたい尊いもの。
かぐや姫としての記憶を失い、月の住人のひとりとなって地球を離れていく姫の姿を見ながら、そんな言葉が心の中にぽっと浮かびました。





以上、長々と駄文を重ねてしまったけれど、ボクの手前勝手な感想でした。



あ、最後にもういっこ。
かぐや姫の侍女として登場するキャラがいるんだけど、全てがシリアスタッチな今作に於いて、唯一といっていいギャグキャラになってまして。
パタリロ激似のそのビジュアルといい存在感といい、ヘビー過ぎるストーリーに於ける一服の清涼剤でした。
ラストシーンでの、意外な大活躍っぷりもカッコ良かったなぁ!



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