2013年01月07日

『希望の国』を観る

先週の話になるんですが、公開終了ギリギリ滑り込みセーフで映画『希望の国』を観てきました。






『希望の国』を観る







【ストーリー】
 東日本大震災から数年後の長島県。酪農を営む小野泰彦は、妻・智恵子と息子・洋一、その妻・いずみと、平凡ではあるが満ち足りた暮らしを営んでいた。隣に住む鈴木健と妻・めい子も、恋人・ヨーコと遊んでばかりいる息子・ミツルに文句を言うことはあるが、仲良く生活していた。
 しかしある日、長島県に大地震が発生し、続いて原発事故が起きた。そのような事態が人々の生活を一変させた。警戒区域が指定され、鈴木家は強制退避が命じられたが、道一本隔てた小野家は非難区域外だった。泰彦は、洋一夫婦を自主的に避難させるが、自らは住み慣れた家に留まった。その後、泰彦の家も避難区域に指定され、強制退避の日が迫る中、泰彦は家を出ようとはしない。その頃、避難所で暮らしていた鈴木家の息子・ミツルと恋人のヨーコは、瓦礫だらけの海沿いの街で、消息のつかめないヨーコの家族を探して歩き続けていた。果たして、原発に翻弄される人々に明るい未来は訪れるのか…







鬼才と称されることの多い、園子温監督の最新作です。

舞台は今から数年後の日本、「長島県」(福島+広島+長崎)という架空の場所が設定されているものの、作中で描かれるエピソードのほとんどは監督自らが東日本大震災の現場に赴いて取材した「実際に起こった出来事」という、ある種のメタ・ドキュメンタリーのような作品となっています。



ネタバレになってしまうので、各エピソードについて詳しく書くのは控えますが、地震、そして原発事故。あの悪夢のような瞬間瞬間を(被災地から遠く離れた長野からだけれど)リアルタイムで経験し、皮膚感覚として強烈な終末感をひしひしと感じたのにもかかわらず、心のどこかで「もう終わったこと」になっていやしまいか?震災から1年と10ヶ月近くが経過したこの日本に生きるボクたちに「覚悟」を問われた・・・そんな作品でした。

もちろん、放射能の影響はまだまだ未知数だし、事故そのものの原因追究だって終わってはいません。被災地の方々が震災以前の生活を取り戻すまでは、決して「終わった」なんていう言葉を使ってはいけないと十分承知しています。

けれども、時間が経つにつれ、あの地震の記憶が薄まっていくような・・・何年の昔の出来事だったと錯覚してしまうような・・・そんな感覚にふと囚われる瞬間があります。


「あの、理不尽の塊のような災厄を忘れるな。心に蓋をして目を逸らすな。そして考えろ。」


この作品は、映画というカタチをとった「怒りに満ちた問いかけ」なんだと、ボクはそんな風に感じました。





・・・と、なんだか抽象的な文章になってしまった感があるので、ここからは映画的な感想をば。

演技陣、特にベテラン勢が良かった!

いぶし銀の夏八木勲、ペーソス溢れる菅原大吉、そして安定のでんでんと、男優陣がボクの大好きな俳優ばかりなので、そうそれだけで大満足なんですが、夏八木勲の妻を演じる大谷直子の存在感が抜群でした。

認知症を患い、現実と虚実の世界を彷徨いながら佇むその透明感にも似た佇まいが、この映画をドキュメンタリーではなく「物語」足らしめる芯になっていたように思います。





この物語は、タイトルにある「希望」という言葉からはかけ離れた結末を迎えます。

絶望と、希望。

それを決定づけるのは、あの災厄を経験し、今を生きる者の心の内にあるんだと、あらためて思い知らされました。

そして、

その覚悟を問われるのは、きっとこれからなんだということも・・・

切なくて、哀しくて、理不尽で。

でも、

「生きていく」ことに美しさを見出さずにはいられない、素晴らしい作品でした。





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Posted by miroku at 02:14│Comments(0)映画
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